LOOKS GREAT! RAMEN-DOG




俺は今、モーレツに緊張している。
畳の上に正座して、紺野が帰ってくるのを待っている。
さっきから一分おきに時計を見ている。

紺野はすぐ戻って来るとだけ言って、5分程前に出かけた。
いつもなら互いに、行き先を告げてから出かけるけど、
今日に限ってはそりゃあ野暮というもんだ。

だって今日は俺の誕生日ですから。

紺野、今頃プレゼント買ってんのかな。
それとももう準備してあんのかな。
どうしてもっていうんなら、受け取らないわけにはいかねえよ。
だって、ほら。せっかく紺野からの贈り物なのにさ。
受け取るよ。だってホラ……さ。ね。

「……ああん、落ち着かねえわあ」

じっとしてられなくて、部屋の中を徘徊する。

しっかし、なんてザマかしらねえ。今の俺の姿。
ぐるぐるぐるぐると、誕生日のプレゼントごときのために。
ぐるぐるぐるぐる。まるでボケた老人みたいだ。

「……ふん」

いや、老人じゃねえな。俺若いし。
じゃあ何だろう……犬とかかな。待ち犬。犬かわいいし。俺かわいいし。
主人の危機に颯爽と駆けつけるチワワの闘犬。
かわいさとある程度のたくましさをもって、主人と一緒に戦うの。



「ただいまー」
「ハイッ!」

玄関に正座していた俺を見て、紺野は暫し固まった。

「な、何してんだ? んなとこ座って」

髪を弄りながら立ち上がり、ニヤケ面を隠すために背を向ける。
ああ、緊張のせいで、なんだか足捌きがぎこちない。
もっとスマートにやらなきゃ。スマートに。クールによ。
紺野は、俺の挙動に首を傾げている。

「いえ。あの。ねえ? ホラ、へへ。あはは」

目玉がもげそうなくらい横目を使って、紺野の手元を視界に捩じ込む。

お土産は?
俺のためのプレゼントは?

偶然かわざとか知らないが、紺野は俺の視線をかわすように両手を背後に回す。

「……なんだかよくわかんねえけど、」

わかんねえのかこの鈍感。
拳で床をぶち抜きたいのを堪えた。その笑顔に免じてな。

「一緒に外に食いに行こうぜ久し振りにさ。今日、お前誕生日だもんな」
「―――へ? でもお前の時」

俺の言いたいことをすぐに察知したらしい。
紺野は静かに首を振る。

「俺の誕生日の時は近くで事件あったから、念入れて部屋にいただけだろ」
「そうだけど。……俺の時だけ外飯とか」

悪いよと続けて、紺野をチラリと見上げる。
だけど、こういう余計な気遣い一式を、こいつはいつも笑って吹っ飛ばす。

「じゃ、来年は俺も外食したい」

神よ。
慎ましく過ごしている我らを見守って下さっていたんですね。
今日から祈りを捧げます。……あっ、できるだけね!



人目を避けるために夜まで待って繁華街に出て、歩く事30分。

「あんま、いい店ないよなあ……風俗か飲み屋ばっかだ」
「スズキノだからねえ」

紺野は困った顔をしたけど、俺は笑顔を返した。
店がなかなか決まらないことを申し訳なく思ってるんだろうけど、俺はそんなの気にしてない。
紺野が誕生日を祝ってくれるだけで嬉しいよ。店なんて本当はどこでもいい。

「もう少し探していいか? 確かこの辺にシャレオツなデザイナーズカフェが……」
「おうさ。いいよいいよ。いくらでも付き合うぜい」

振り返った紺野が、眉毛を下げて申し訳無さそうに笑う。

「すまんな、段取り悪くて」
「いいのいいの。お前の誕生日の時なんてあんな質素なパーチーで……」
「その話はもう終わったんだよ。……よし、本気で探すぞ!」
「なんだよ、今まで本気じゃなかったの〜?」
「だってよこの辺って妙に入り組んでて……」

等と話しながら、進んで行く紺野を追って。
……突然立ち止まった背中に、ぶつかった。

「―――ここだ!」

風俗とは違う、どこか上品なネオンの看板。
窓ガラスの向こうに、薄暗い店内にぎっしり人が入っているのが見える。
どうやらこの店が紺野が目指してた店らしい。

「へえ、なんかカッコイイとこじゃん。でも混んでね? 座れそ?」
「えーと、どうだろ。待ってろ聞いてくる」

店内に駆け込んだ紺野はすぐに戻ってきて、手招きする。
席は空いていたようで、これまたお高くとまった店員によって席に通された。

「……うん」

店内を見渡して、この雰囲気は確かに都会の店に似てると思った。

「なあ紺野」
「ん?」
「もしかして、……俺のためにオシャレな店、探してたのか?」

紺野は水を口に含んだまま、目を丸くしてうなづいた。
くーっ。そうかそうか、いじらしい奴よの。

「ありがと。紺野」
「う、うん」

おやおや。目を逸らしたのも、照れてるからですね。
んもう、今ここでおもっくそ突っ込みたい。
わんわん泣いてもう許してって言われても、やめてあげないんダカラ☆
……やべ、鼻息荒くなってきた。
落ち着こうと煙草をくわえる。

「あ、灰皿か? すんませーん」

紺野も煙草をくわえながら、店員を呼び止める。

「……」
「……」

―――全席禁煙だった。

「……」
「……」

俺達は同時に顔を見合わせて、頷く。
そして、コーヒーだけ飲んで店を出た。



「下調べ、ちゃんとしてこなくてごめんな」
「はは、さっきから謝ってばっかだなあ紺野」

二人で並んで歩いていても、紺野の肩はがっくり落ちたままだ。
本当に気にしなくていいのに、こいつは変に責任感強ぇっつうか。
気にしすぎっつうかなんつうかね。

「……えーとそれじゃあ、ここ」

慰めの言葉をかけようとしたら、紺野が立ち止まった。
そしてとあるラーメン屋の中に入っていく。
ボロッちくて、衛生的な店構えじゃない。
湯気で煙たい狭い店内には、頑固そうなオヤジと、黙々と麺をすする一名様ばかり。
とりあえず追っかけて、脂っこい席に座ったはいいけど。
紺野にしては些か強引すぎる行動に、俺はちょっと困惑していた。

「お前もとんこつでいい? いいよな? 好きだもんなとんこつ」
「……いいけども」
「あーよしよし、えーと、そいじゃ少し待ってて」

紺野はぶっきらぼうにそう言って、立ち上がった。
……やっぱ昔より小汚くなったなあ、紺野は。
しょうがねえよな。逃亡生活してるんだもんな。
そりゃムサくもなりますよね。ほぼ、外に出れない日もあるし。

今こいつがこんな生活してるのって、俺のせいだから。
時々無性にいたたまれない気持ちになるんだ。
俺は、俺たちは本当にこのままでいいのか。
いいわけないのに、手放せないのだった。



「来栖、来たよ」

そんな言葉を、俺はぼんやりと聞いていた。
回り出した思考の歯車に意識を巻き取られて、空っぽの気持ちで顔を上げた。


そして。
なんつうか。
ちょっとわけがわからなくなった。


「なんでラーメンにロウソクが立ってんだろう」
「ふふふ」

ゆっくりと紺野を振り返ると、ラーメンの湯気のせいか頬が赤かった。

「これどういうこと。どういう状況……?」
「えーっとこれは―――あっ、早く食え! ロウソク溶けっから!」
「う、うん。ずるずる……ゾババ…」
「誕生日パーティの予約できた店が、ここだけで。最近外出できなかったから」
「ずるずる……ゴクゴク…」
「で、店長さんの厚意でケーキの代わりにラーメンで祝おうってなって…」
「……ずるる」
「で、これ仏壇用のローソクなんだけど、ローソクには変わりないからってことで…」
「……」
「とりあえず……麺に刺す感じで、立ててもらって」
「……」
「予約までの時間潰すのに、シャレオツなカフェにと思って…」

ラーメンどんぶりがじわりと滲んで、鼻水も垂れてきた。
汁に浮かぶアブラと肉片とロウの玉。
俯くとティッシュを箱ごとを握らされ。
横を見やると穏やかな苦笑の紺野。

「とにかく、お誕生日、おめでとうございますおさん」

畜生、紺野め。
てめえの誕生日と、ましてや俺の誕生日にまで泣かせるなんて。
俺がお前に何したか覚えてんのか。
お前を地獄に突き落としたのは、俺なのに。

畜生。
大好きっす。


お前を地獄に突き落としたのは、俺だけど。
きっと俺が天国に引っ張り上げてやる。
心からそう思った。
麺とアブラと肉片とロウの玉を、胃にぶち込みながら。


そりゃあ。
……あんまりケンカは自信ないけど。チワワだけど。
お前のためなら、ほんと、何でも出来るような気になるからさあ。


だからもっと、そうやって笑って、
俺の腹を、撫でてくれ。







END.






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