HAPPY GROOM



ぱちりと目を開け、携帯を見る。
休みなら目覚めるには早く、仕事なら遅刻している時間。
今日は前者。休日だ。

耳を澄ませば下の階から、やや興奮気味の、弾んだ話し声が聞こえる。

「さて……どうすっかね」

布団の中で足の指をピコピコ動かして、どっちにするか考える。
起きるか、もう少し寝るか。

「……起きる」

寝ていてもしかたないしな。
呟いて飛び起きた。
そのまま、ジャージのままで一階に降りて……勢いよくドアを開け放つ。
きょとんとした、幾つかの顔が出迎えた。

「お、おはようお兄ちゃん、今日ちょっと早いね」
「うん。目ェ覚めたから起きた」
「マユはまだ準備できてないのに」
「こらこらそれはナイショだろ」
「あっ、そうだった」

苦笑交じりの鉄弥の指摘に、マユが口を手で押さえる。
それを見たら、微笑ましい気持ちになって、思わず頷いてしまった。

「今のはなんでもない」
「うんうん、俺は何も聞いてないぞ」

せせこましい一軒家の、生活感に満ちた居間が、
年に数回、華やかなパーティー会場になる。
今日はその、数回の中の一日だ。
5月6日。
俺の誕生日。

例年通りなら、優しい兄貴は、
裏方の準備が終わるまで、二階で寝たふりをしているか、
仕事中か、外出しているかのどれかを選んでいたけど。
今日の兄貴は、マナー違反と知りながら、
裏方の準備が済む前に、会場に顔を出してみた。
ほんのイタズラ心で。浮かれてて。

さて。
そんなさすがの長男も、この場で手伝いを申し出るほど無粋じゃない。
見ざる聞かざる言わざるで、居間の置物と化すことはできるけど。
それじゃあまりに邪魔だろうから、夕方までは外出し、両親の帰宅に合わせて家に戻った。

寿司、鯖、ケーキ、瓶コーラ。
家族の笑い声と、手作りのプレゼントに囲まれる。

「お誕生日おめでとう! お兄ちゃん!」

幸せと平穏を噛み締めながら、時計を見ると、
あと数時間で、今日という日も終わってしまう時間だった。

そこで俺はふと、とあることを思い出した。


@やばい。頼まれてた仕入れの個数、一桁間違えてたかも。
A……この状況って一昨年の話じゃね?
Bあいつに呼び出されてたな、そういえば。
C待ち合わせしてたの、すっかり忘れてた。
Dこれが全部、夢だということに。









当サイトに記載されている全ての画像等の無断転載、及び複製を禁止いたします。
リンクフリー、ブラウザはIE6.0以上を推奨です。
Copyright (C) LOVE & DESTROY. All rights reserved.