HAPPY GROOMING


俺の誕生日はいつも、家族と友達が祝ってくれた。

友達と飲んで食ってプレゼントを貰って騒いで、
家に帰ってからも、飲んで食ってプレゼントを貰って、寝ていた。

多くはなかったけど、友達と呼べる奴らはいたし、
思春期の時でさえ、家族と仲が良かった俺は、
貧相過ぎず、かといって華美すぎない、きっと普遍的と呼ぶに相応しい1日を、
物心ついた時から送ってきたと思う。

彼女がいた時は、彼女も祝ってくれた。
ただ、その後に家族との行事が控えてるから、
19時解散だったわけだけど。

だが、今年は少し様相が違う。

熊沢で出会った友人達も、
俺の誕生日を祝ってくれるというのだ。

彼らが、俺の誕生日には全員で集まって祝ってやろうと
実は前々から話していたと聞いた時の、
俺の感動たるや、想像に難くないだろう。

だって、昔からの知り合いってわけでもないのに、
たかがここ数ヶ月の間に出会った野郎の
誕生日を態々集まって祝ってくれるなんて、
そんなことがあるなんて、思ってもなかった。

彼らは俺にとって、生きるか死ぬかを共にした友人達だ。

―――誕生日のお祝いの話を九条さんからの電話で聞いた時、
俺は勿論喜んだ。

二つ返事で、絶対に行くと返事をした。




よく晴れた5月6日の真昼、予約してあるからと
指定されていた神宿のとある店に降り立つ。

「……絶対九条さんチョイスか、矢ヶ崎さんチョイスだ」

もう少しいい服を着てくれば良かった。
口を開けたままその店をしばらくは見上げて、
覚悟が決まってから、入り口を潜る。

なんたって、あのゲームが終わってから久しぶりに彼らと会えるんだ。
例えここがどんな店だろうと、逃げ帰るつもりなんてない。

店に入った瞬間、自分の名前すら人数すら告げてないのに、店員にエスコートされた。
どんどん店の深くに潜っていき、扉の前まで辿り着くと、
店員は一礼して去っていった。

貸切だろうか。
色んなことを考えてしまう。

こんな上等な店なんだから、部屋の中はさぞかし豪華なんだろうな。
みんなちゃんとした服とか着てるのかな。
主賓の俺がこんな格好で恥ずかしくないかな。
俺何も持って来てないけど、やっぱりなにか持って来た方が良かったかな。

申し訳ないのと、嬉しいのとが混ざり合った複雑な心地だ。

でも、久し振りに4人に会える。

そう思ったら、ノックする手と、部屋に踏み込む足は緊張してたけど、
顔だけは盛大に緩んだ。
気を抜いたら、鎖を振り払って駆け出す犬みたくなりそうだった。
だから、歯を食い縛ってドアを殊更静かに開く。

「――――失礼します」

言いながら、顔をゆっくり上げていく。




上品なタイルが敷き詰められた床、
景色がよく見える大きな窓、
丁寧に飾られたテーブル。

部屋を見渡すと、見知った顔が4つあった。
そしてその4つの顔もまた、俺をじっと見ていた。

さっきまで、まずは最初に、真剣にお礼を言おうと思ったばかりなのにな。
態々俺の為に、こんな誕生日会なんか開いてくれてありがとうって。
皆仕事とかあるだろうに、忙しい中本当にありがとうって。
その他にも一杯一杯言いたいことがあるのにな。
どれを最初に言ったらいいのかわかんねえや。

迷ってたら、結局、笑顔が最初になった。

「お久し振りです、みんな」




俺の声に対して、まずはひとり目が華麗に立ち上がった。

「久し振りなんかじゃないよ。俺はいつだって君の側にいるんだから」

ひとつの席についている九条さんが、椅子を倒して立ち上がり、
綺麗な笑顔で返してくれる。

九条さんはいつだって九条さんだな。
頷きながら、えーと確かそうでしたね、とか、何となく返しておく。

「勿論さ。さあ、早くそこへ座って。今日の主役も、君だよ」




二人目は、既に俺に前にスタンバっていたらしい。

「ゲー」

先に進もうとした俺の目の前に、真っ黒なものが突き出されている。
それの向こう側に、ジャージ姿の吉本が見える。

「これをやる」

「ア゛ー」

真っ黒いものが、おもむろにバタバタ動く。
だが、相手が吉本だということを踏まえて、
冷静によく見てみると、その物体の正体はカラスだった。
吉本は、カラスの首を持って俺に突き出していた。

「これもやる」

次は、アマガエルが出て来た。
ケロロと鳴いて、吉本の掌の上で跳ねるそれを、
頷いて、しっかり受け取ってから、上着で包んで部屋の脇に置いた。




三人目はテーブルに伏せたままで動かない。




四人目は、部屋の隅にある休憩用の椅子に腰かけていた。

「そか、コンは今日誕生日か。GWなあ。なんや勿体無い日に生まれたなあ。
 忘れられたりしたことなかってん? 今まで」

「親戚んとこ行くからって、最後の最後に回されたことはありましたね」

「はー、不憫でおもろいわ」

「不憫なのに面白いって酷くないすか」

矢ヶ崎さんが面白そうに笑っているので、俺もまた笑った。


さて、どうしようかな。

@九条に近付いて、「あなたの主役の俺です」とそっと呟く。

Aお前の気持ちはしかと受け取った。吉本を見詰め返す。

B新田を叩き起こす。

C人前だからって超よそ行きモードの矢ヶ崎が怖い。隣に座る。





END.






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